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統計不正問題=小川淳也議員による根本大臣不信任決議案趣旨弁明を悪意ある切り取り編集で貶めたNHKニュース(2019)

 平成31年3月1日、衆議院本会議において、根本厚生労働大臣不信任決議案が野党より提出され、この間の統計不正問題を追及してきた小川淳也議員(立憲民主・無所属フォーラム)が1時間48分にわたる趣旨弁明を行った。

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 この小川議員の趣旨弁明演説を同日3月1日夜のNHKニュースウオッチ9」が報じたが、その報じ方が「あまりにもひどいものだった」として、上西充子法政大学教授がその放送内容を全文書き起こしNHKの映像がどのように悪意に満ちていたかの分析・解説を「ハーバー・ビジネス・オンライン」(2019.3.6 扶桑社)に発表している。(乙7号証①)

 上西教授はまず小川淳也議員の1時間48分にわたる渾身の演説を独自につけた27項目の見出しでおおよその内容を以下のように紹介。

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(1)決議文
(2)統計への不信
(3)根本厚生労働大臣指導力の欠如
(4)理由の第一:初動段階における指導力の欠如
(5)理由の第二:真相究明に至る判断力の欠如
(6)理由の第三:被害者救済に向けた取り組みにおける適格性の欠如
(7)理由の第四:実質賃金公表への消極姿勢
(8)理由の第五:国会における答弁能力の欠如
(9)安倍総理任命責任
(10)内閣総理大臣の責任:統計への官邸の不当な介入
(11)部下への責任転嫁
(12)トップの部下に対する評価が、組織の体質を決め、職員の行動倫理を変えていく
(13)組織が揺らいでも、社会は揺るぎないものになる
(14)何が都合がよいか、悪いか、を基準とした言動の先に待つもの
(15)総理秘書官の越権行為
(16)GDPのかさ上げ
(17)GDP推計の基礎となる一次統計の見直し
(18)統計への政治介入
(19)統計への信頼回復のためには
(20)消費増税
(21)幼児教育の無償化
(22)ワーキングプア世帯を直撃する消費増税
(23)最大の闘いの対象は、国民の諦め
(24)安倍政権による言葉の粉飾
(25)国民は、どこへ連れて行かれるのか
(26)民のかまどを憂う思いを
(27)結論:真に国民の負託に応えるために、私たちに求められるのは、国民に対する信頼

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 その上でNHKの報じ方は「あまりにもひどく、悪意ある編集により、小川議員はあたかも、政権を皮肉り、無駄に水ばかり飲み、いたずらに時間をつぶして喜んでいる礼儀知らずの議員であるかのように報じられていた。そして、自民党議員の反対討論は、その小川議員の行為を諌めるものであるかのように報じられていた」と指摘している。
 以下、上西教授の解説を引用して一部を紹介する。

小川淳也議員の言葉をひとつも紹介せず、悪質な印象操作報道に終始

 ――第一に、小川議員自身の言葉が一つも紹介されなかった。紹介されたのは、冒頭の「つかみ」部分で、総務省の統計標語の募集に対してインターネット上にあふれた統計標語のパロディだけだ。まるで小川議員が、誹謗中傷だけで無駄に時間を埋めたかのような印象を与えるものだった。

 ――第二に、小川議員は無礼であるかのような印象を与えた。実際には趣旨弁明の開始時に、大島議長に対しても議場の議員に対しても深く一礼しているのだが、それは紹介されず、登壇のシーンに続いて、原稿を読み上げるシーンが流され、(アナウンサーの音声がかぶせされ、何を語っていた場面かは読み取れない)、一礼した場面は紹介さなかった。それに対して、自民党の丹羽議員については、議場の議員に対して深々と一礼するシーンが流された。
 「途中、何度も水を飲む姿に、議長は」というアナウンスも、いたずらに水ばかり飲み、無駄に時間を費やしているかのような印象を与えるものだった。また引いたカメラで、水を飲む小川議員と、その背に向かって注意する大島議長、というシーンをとらえることにより、無礼な議員、という構図を示した。
 
 実際には、大島議長が小川議員に注意したのは、1時間48分のうちで、二度だけ。消費税に触れた場面で「少し早めてください」という発言があった。さらに結論のところで、「(与党の)不規則発言に答えず、進行してください」という発言があった。
 しかし、大島議長の「少し早めて」という注意に続いて、その注意に拍手で応える与党議員を映し出すことにより、議長も議員もうんざりしている、という印象を与える描き方だった。

 ――第三に、苦笑いしつつ原稿を振りかざした小川議員の様子に「趣旨弁明は、二時間近くに及びました」というアナウンスをかぶせ、うんざりした様子の自民党橋本岳議員の姿を映しだした場面は、いたずらに時間をつぶしてヘラヘラと小川議員が笑っているかのような印象を与えるものだった。
 実際には原稿を振りかざした場面は、結論に至る直前だ。本当はまだ、4割ほども語り残した原稿があった。しかし、無念の思いで諦めた、その苦笑いをとらえたものだった。

 ――第四に、自民党の丹羽議員による「このたびの野党諸君が提出した決議案は、まったくもって理不尽な、反対のための反対。ただの審議引き延ばしのためのパフォーマンスであります」との発言は、小川議員自身の発言が一言も紹介されていなかったため、説得力を持つもののように紹介されていた。
 適切に小川議員の演説の要点をNHKが紹介していれば、この丹羽議員の発言こそが、「まったくもって理不尽な」、小川議員の指摘に対する「反対のための反対」であり、小川議員の指摘が当たらないかのように印象付けるための「パフォーマンス」であったことが、視聴者に理解されただろう。しかし、そのようには紹介されなかった。

 ――第五に、自民党の丹羽議員による「国民の誰ひとりとして、このような無駄な時間の浪費を望んでいないことに、どうして気が付かないのでしょうか」という発言。(上西教授は)これを、野党議員を支持する国民を排除する発言と受け止めたが、NHKは「誰ひとりとして」という排除的な発言を、もっともな指摘であるかのように紹介した。

 ――第六に、小川議員の趣旨弁明演説の前に根本厚生大臣の、余裕の笑顔のような表情を映し出し、最後にも根本大臣の発言を紹介することによって、小川議員の趣旨弁明演説はなんら根本大臣に「刺さる」ものではなかった、という印象を視聴者に与えた。

 実際には小川議員は、いたずらに時間をつぶして採決を引き延ばしていたわけではない。いかに統計への政治介入の問題が深刻な問題であるか、いかに人事権を全権掌握した安倍政権が官僚に真実を隠させ、組織のモラルを崩壊させているかを、真摯に説き、モラルの立て直しと、社会の立て直しに向けて、自らの決意を述べたものであった。

 なぜ総理秘書官が統計手法の変更に関与してはならないのか。小川議員はこう語っていた。

 「森友・加計問題における柳瀬秘書官、そしておそらく現在彼ら全てを統括しているであろう今井政務秘書官、こうした官邸、総理まわりの人物は、すべて法的な職務権限を持たない人たちばかりです。
 しかし実際に、その権力と影響力は、絶大です。その職責はひとえに総理を補佐することにあるにもかかわらず、霞が関に向かっては、総理の意を笠に着て、事実上、絶大な権力を行使しているのです。
 この国の民主主義、法治国家の基本原則は、すべての権力が国民の信託に由来するところから始まります。同時に、全ての権限は、国民の信託に由来する国会において認められた法律に基づき、具体的な職務権限として規定され、行使されています。
 同時に、この法律に基づく職務権限は、それに対する説明責任と、結果責任を、セットとして併せ持っています。
 つまり、権限には責任が伴い、責任のないところには権限はなく、責任なくして権限なし、権限なくして責任なし。これが原則であり、当たり前のことです。」

 毎月勤労統計の調査手法が官邸の介入により不透明な形で変更され、前年からの実際の賃金の変化の動向が把握できない状況のままに予算案が可決されようとしていることに対しても、小川議員はこう語っていた。

 「根本大臣、賃金は与党の議員も言う通り、バーチャルで上がっても何の意味もありません。数値だけ上乗せされても、国民生活は全く改善しないのです。一刻も早く、統計委員会が重視をし、連続性の観点からも景況判断の決め手となる、サンプル入れ替え前の継続事業所の賃金動向、すなわち『参考値』をベースとした実質賃金の水準を明らかにすることを求めるものであります」
 
 NHKの制作者は、小川議員の演説を聞きながら、丹羽議員が言うように「まったくもって理不尽な、反対のための反対」だと受け止め、その丹羽議員の指摘を報じたのだろうか? そうではなく、それぞれの主張を公平・公正に並べたというのなら、小川議員の指摘の要点をなぜ紹介しなかったのか。

放送法4条に明白に違反し、政府・与党にすり寄った忖度報道の典型

 このようなNHKの報じ方にはツイッター上では批判の言葉があふれた。しかし、NHKを見ている人には、このNHKの切り取り編集の悪質さは伝わらない。野党議員が国会質疑の時間を無駄に浪費している、そのように受け止めただろう。そう考えると、何とも言い難い思いに駆られる。しかし、そうやって政治にうんざりして関心を失うことこそが、政府・与党が狙っていることなのだろう――と上西教授は指摘している。

 この悪意ある切り取り編集で貶めたNHK報道は「政治的に公平であること」「報道は事実を曲げないですること」「意見が対立している問題には、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定めた放送法第4条に明らかに違反しており、政府・与党にあからさまにすり寄ったニュース報道の典型であると言える。

 この3月1日のNHK報道について、同月14日の衆院総務委員会で小川淳也議員自身が質問に立ち「野党の主張を報道の骨子に取り入れてない。政権与党に都合のいいことを言う(報道)との批判がある」と指摘した。それに対してNHKの木田幸紀専務理事は「自主的な編集判断」と繰り返し答弁。野党が反発して委員会審議が中断すると「結果としてこのようなご指摘をいただいたことは真摯に受け止める」と述べた。
(乙7号証② 朝日新聞デジタル2019.3.14)

 また作家の平野啓一郎氏は2019年4月1日付西日本新聞のコラムで「NHKの政治報道」と題して、この小川淳也議員の趣旨弁明演説についてのNHKニュースに触れ「もし、政権維持のために意図的に歪曲(わいきょく)しているとするならば、報道機関としてはその資格を欠いており、公共放送としては論外である。」と厳しく指摘している。

www.nishinippon.co.jp

 


【字幕つき映像】3月1日衆議院本会議 根本厚生労働大臣不信任決議案趣旨弁明 小川淳也議員(立憲民主党・無所属フォーラム)#国会パブリックビューイング

 

hbol.jp

 

*この事例は令和元年(2019年)5月21日、小田原簡易裁判所(→横浜地裁)に提出した答弁書追加書面「私の言い分」の中で取り上げた疑惑事例のひとつです。