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「NHK受信料不払い訴訟」の裁判記録とその他の余話

「社会的共通資本」としてのメディアを取り戻す……(国際ジャーナリスト・堤未果)

 これからの公共放送としてのNHKの在り方を考える提言として、国際ジャーナリスト・堤未果さんの話を紹介したい。

 これは、2018年3月、NHK番組で大きな反響を呼び、ギャラクシー賞優秀賞を受賞したNHK-Eテレ「100分de名著スペシャル~メディア論」に登場した4人の論客(堤未果中島岳志大澤真幸高橋源一郎)が活字媒体で再び結集し、1冊の本としてまとめた「支配の構造 国家とメディア――世論はいかに操られるか」(SB新書 2019年7月15日刊)の中から抜粋したものである。

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「社会的共通資本」としてのメディアを取り戻す
(国際ジャーナリスト 堤 未果)

 今、「NHKは不要だ、解体しろ」という声があります。経営委員の人事や予算を政府が握っているにもかかわらず、以前は時の政権への批判もしっかり報道していましたが、特に安保法案が強行採決された頃から、政権に都合の悪い内容を避けているのが目立ちます。記者やプロデューサーには素晴らしい人がたくさんいて、Eテレなどは今も優れた番組を作っていますが、報道局やトップと現場の温度差がますます広がっていることが、国民の「知る権利」を大きく脅かしています。
 だからこそ、NHKという象徴的な存在を通して「なぜ国家にとって公共放送が重要なのか」ということを、原点に戻って、徹底的に考え直す時期にきていると思うんです。

 今、「公共」という概念が、グローバル資本主義に飲まれ世界的に消滅しかかっている中で、「公共放送」というものも、その在り方を問われているからです。

 IT革命とコーポラティズムの台頭で、世論は「お金で買える商品」になりました。政府や広告代理店がフェィクニュースをばらまいて世論や選挙を意図的に誘導することも、簡単にできるようになってしまった。だからこそ、採算度外視でも国民の知る権利という公益に奉仕する「公共放送」は、国家や国民、そしてその国の民主主義にとって、今後ますます重要な意味を持ってくるでしょう。

 そういう意味で、世界最大の公共放送局であるNHKが時の総理に私物化されるとしたら、これは国家にとっての危機以外の何物でもありません。
 決して事実上の国営放送局になってしまってはいけない。あくまでも公共放送として、国民の「知る権利」という公益に奉仕してゆかなければならないのです。

 私が、メディアはさまざまな意見を流すプラットホームであってほしいとお話ししたのは、何もかも「自由化」の波に飲み込まれつつある中、優れた公共放送が国家にとって、社会的共通資本の一つだからです。戦争と平和、差別と人権、いのちと生物多様性、コミュニティの消滅や環境問題、農村・漁村の、ささやかだけれど大切な営みが破壊されていくこと。私たちが抱える問題は全て「知る権利」が損なわれたら、解決できないのです。世界最大の公共放送局としてのNHKという存在を、もう一度問い直すことで、「公共放送」という「守るべき存在」に、また一つ日本国民が、世界が気づいていく。それができれば、社会はまた一歩、良き方向ヘと変わっていくのではないでしょうか。

(「支配の構造 国家とメディア――世論はいかに操られているか」堤未果中島岳志大澤真幸高橋源一郎 共著 SB新書20190715より抜粋乙14号―2)

 ここには私が日頃思っていること、NHKに言いたいことが全部書いてある
と思った。この一文に励まされて、私は、この準備書面を書いた。

 

 ――この提言は私が令和元年(2019年)9月17日、横浜地裁小田原支部に提出した準備書面で採用させていただいたものです。