夜風夜話 NHKは誰のものか!

「NHK受信料不払い訴訟」の裁判記録とその他の余話

第1審 準備書面・原告NHKの主張に対する反論(令和元年9月17日付 横浜地方裁判所)

令和元年(ワ)第***号 放送受信料請求事件
原 告  日本放送協会
被 告  ****


準 備 書 面

                            令和元年9月17日

横浜地方裁判所小田原支部民事Aイ係 御中

 

被 告 ****

 *これは令和元年(2019年)9月17日、横浜地方裁判所小田原支部に提出した準備書面の全文です。

はじめに

 原告(NHK)は令和元年6月26日付「準備書面」において、私が提出した令和元年5月14日付け答弁書及び同月21日付け答弁書追加書面「私の言い分」に対する反論として、以下の点を主張している。

1. 放送法第1条は、放送法の目的を定めた規定であり、原告の義務について定めたものではない。
2. 放送法4条1項に基づき放送事業者が負担する義務は、個々の契約者に対して負担するものではなく、国民に対して一般的抽象的に負担するものであると解するのが相当であり、同義務は、個々の契約者の放送受信料の支払い義務と対価的な双務関係に立つものではなく、被告は、原告の放送する番組の内容にかかわらず、受信料支払い義務を負う。
3. したがって、被告の主張は失当である。なお、原告の放送において、放送法違反は存在しない。
 
 原告(NHK)が反論の論拠として提出された証拠説明書(甲第2号証)は平成26年6月27日、東京地裁民事25部で言い渡された平成26年(レ)第249号放送受信料請求控訴事件の判決書である。
 私はNHK放送受信料請求事件の法的根拠を求める場合、現時点においては平成29年12月6日の最高裁大法廷判決を基準にすべきと考える。まずこの最高裁判決の趣旨と要点を確認し、そのうえで、原告(NHK)の主張に反論を行いたい。

 

第1 平成29年最高裁大法廷判決の趣旨と要点

 先に提出した答弁書追加書面「私の言い分」のまとめ(23ページ)でも触れているが、平成29年(2017)12月6日の最高裁大法廷はNHK受信料契約を義務付ける放送法64条第1項の規定は「合憲」とする判断を行った。
 新聞などのメディアが「受信料は合憲」という見出しを立てて報じたため、NHK勝訴というイメージがあるが、最高裁はNHKの主張を全面的に認めたわけではない。同時に受信契約の前提として、NHKに対して公共放送としての責務があることを改めて明示し、契約には双方の合意が必要としたからである。NHKは重い責任を負ったともいえる。

 元NHK経営委員長代行の上村達夫早稲田大教授(会社法)は平成27年12月7日付毎日新聞朝刊「識者の話」で次のようにコメントしている。

 判決がNHKの存在意義を「知る権利を実質的に充足し健全な民主主義の発達に寄与することを究極の目的とする」とした点は重要な意義がある。ただ、いまのNHKの在り方がすべて肯定されたわけではない。受信料を徴収してよいというだけの判断とも言える。国民が費用を負担するに値する公共放送とは何か、ふさわしい番組を提供しているか、真剣に議論すべきだ。判決の指摘にふさわしい存在であるか、NHKは今後も証明していかなければならない。(2017.12.07毎日新聞 乙10号-1)
 
 以上の点を踏まえながら、まず最高裁判決が示した3つの要点を確認したい。

1 放送法64条1項の意義~健全な民主主義の発達に寄与する~

 放送は、憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。
 放送法が「放送の不偏不党、真実及び自立を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」などとする原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的(1条)として制定されたのは、上記のような放送の意義を反映したものに他ならない。

 この目的を実現するため、放送法は公共放送と民間放送の二本立て体制を採用。その一方を担う公共放送事業者としてNHKを設立。民主的で多元的な基盤に基づきながら、自律的に運営される事業体として性格づけ、公共の福祉のための放送を行わせることとした。

 放送法がNHKについて、営利目的の業務や広告放送を禁止し、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料で賄うこととしているのは、特定の個人、団体、国家機関などから財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにし、NHKの放送を受信できる者に広く公平に負担を求めることで、NHKが上記の者ら全体により支えられる事業体であることを示すものにほかならない。

2 放送法64条1項の合憲性~国民の知る権利を充足させる~

 公共と民間の二本立て体制の下で、公共放送を担うものとしてNHKを存立させ、民主的かつ多元的な基盤に基づき、自律的に運営されるようにするため、その財政的基盤を受信料負担で確保するものとした仕組みは、憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものと解されるのであり、放送をめぐる環境の変化が生じつつあるとしても、なおその合理性が失われたとする事情も見いだせないから、憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきだ。

3 受信契約について~契約締結には双方の合意が必要~

 64条1項が、受信設備設置者はNHKと「その放送についての受信契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、受信料の支払い義務を、受信設備設置やNHKからの一方的な申し込みだけで発生させるのではなく、受信契約の締結、すなわちNHKと受信設備設置者との間の合意によって発生させることとしたものであることは明らかといえる。
 放送法自体に受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続きは規定されていないが、民法民事訴訟法で実現されるものとして規定されたと解するのが相当だ。

 NHKの財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的にはNHKが受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることが望ましい。法施行後、長期間にわたり契約締結の承諾を得て受信料を収受してきた。契約成立には双方の意思表示の合致が必要というべきだ。
 NHKからの契約申し込みに対して受信設備設置者が承諾しない場合には、NHKがその者に承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決確定によって受信契約が成立すると解するのが相当だ(2017.12.06大法廷判決要旨/朝日新聞 乙10号-3)


第2.平成29年最高裁判決を踏まえて
原告の主張に反論する

 平成29年12月6日の最高裁判決は受信契約に応じない受信設備設置者に対してNHKが提訴した裁判であり、本件は受信契約者(私)がNHKの放送に放送法違反があると抗議して受信料の支払いを停止したことにより、原告(NHK)より支払い督促を受けたことで発生した事案であるが、受信契約をめぐる問題としてとらえれば、最高裁判決は当然反映されるものと思われるので、最高裁判決の本件に関係すると思われる部分を踏まえて原告の主張に反論したい。

 

1.「放送法第1条は放送の目的を定めた規定であり、原告の義務を定めたものではない」について

 放送法は15条において「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに、放送及びその受信も進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的」としているが、次の16条において、「協会は、前条の目的を達成するためにこの法律の規定に基づき設立される法人とする」としている。「この法律の規定」とは「放送法全体」をさしていると解される。(乙1号―1)

 最高裁が示した受信契約を合憲とする放送法64条1項の意義は、放送法第1条に規定された「放送法の目的」の内容と表裏一体をなし、その目的を実現するために、公共放送と民間放送の二本立て体制の中で、公共放送を担うものとしてNHKを設立したとしている。いわば放送法第1条は15条(NHK)の本籍であり、NHKが依って立つアイデンティティである。そこに規定された放送法の目的は、放送事業者として当然遵守すべき義務であると考えるのが自然である。

 

2.「放送法第4条1項に基づき放送事業者が負担する義務は、個々の契約者に対して負担するものではなく、国民に対して一般的抽象的に負担するものであると解するのが相当であり、同義務は、個々の契約者の放送受信料の支払い義務と対価的な双務関係に立つものではなく、被告は、原告の放送する番組の内容にかかわらず、受信料支払い義務を負う」について

 最高裁判決が示した主な内容は、①「放送法64条1項の合憲性は憲法の保障する国民の知る権利を実質的に充足すべく採用されたこと」②「受信契約の締結には双方の合意が必要」の2点に集約される。
 原告(NHK)の主張には、この最高裁判決の趣旨が全く反映されていない。ついでに言えば、原告(NHK)は、最高裁判決については「受信制度の合憲性」のみアピールし、この2点についてはほとんど広報・告知していない。

1) NHK受信料の対価は「国民の知る権利の実質的な充足」である。個々の受信契約者に対して具体的な権利利益や恩恵をもたらされなければならない。

 最高裁判決は「国民の知る権利を実質的に充足させる」ことを受信料の支払い義務を合憲とする理由に挙げた。憲法が保障する「契約の自由」を超越して、強制的に義務を課した受信料の対価は、受信契約者の立場に立てば、「国民の知る権利の実質的な充足」がそれにあたる。
 「国民の知る権利」は憲法21条(表現の自由)の下で国民一人一人に保障された権利であり、しかも「実質的に充足」という文言がある以上、一般的抽象的な概念で約束されるものではなく、個々の受信契約者に対して具体的な権利利益や多様で豊かな恩恵をもたらすものでなければならない。そしてその集合体としての社会的成果が61条1項合憲の意義である「健全な民主主義の発達に寄与する」ことにつながっていくのである。

「知る権利」について
=国の政治に関する情報を、国民が自由に入手する権利(アクセス権)。公権力により妨げることなく自由に情報を受け取るという消極的自由権的側面と、情報の積極的な提供・公開を国家機関に対して要求するという積極的請求権的側面とを持っている。日本国憲法第21条に定められている表現の自由の保障は、単に表現活動を行うものの自由だけでなく、それに対応するものとして、表現の受け手の知る自由をも当然に保障しているものと考えられる。(「日本大百科全書ニッポニカ」濱田純一の解説より)
=民主主義社会における国民主権の基盤として、国民が国政の動きを自由かつ十分に知るための権利。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典の解説より)

2) 「国民の知る権利の実質的な充足」は放送第1条、第4条1項や「NHK放送ガ
イドライン」などによって保障される。

 「国民の知る権利の実質的な充足」を実現する具体的な手立てや評価基準は何か。それが放送法4条1項各号であり、「NHK放送ガイドライン」に相当する。
 放送法4条(国内放送等の放送番組の編集等)は第1条が掲げる「放送の不偏不党、真実及び自立を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」などの目的を実現するための、具体的な番組制作の基本原則をしめしたものである。
 「NHK放送ガイドライン」は放送法とそこに明記されたNHKの遵守事項を踏まえて、「放送の自主・自立の堅持」や「正確で公平・公正な情報」「豊かで良質な番組の幅広い提供」など、公共放送としての指針やNHKの取材・制作の基本姿勢を明記したものである。
 つまり、これらの条文やガイドラインの中身が誠実に遵守され実行され具現化されることが、NHK受信料の対価=「国民の知る権利の実質的な充足」の提供・履行につながるのである。(乙1号―1,2)

放送法第4条1項(1号を除く)

二 政治的に公平であること
三 報道は事実を曲げないこと
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること
 
 ここに規定している3項目は決して抽象的な概念ではない。放送記者として、あるいは放送事業者として報道ジャーナリズムに携わる者にとっては初歩的な知識であり、報道の鉄則と言える。
 しかしながら原告(NHK)は、私が令和元年5月21日付け「答弁書 追加書面「私の言い分」」の中の「放送法違反と思われる事例(7事例)」で例証したように、この3項目に反する放送を行っていて、「国民の知る権利の実質的な充足」に応えるというNHKの責務を十分に果たしているとは言えない。

3) NHK受信契約はNHKと受信契約者の「双方の合意」と信頼関係に基づく「有償双務契約」である。当然、債務不履行に対する抗弁権も認められる。

 最高裁判決は受信契約の締結は「双方の合意が必要」で、契約成立には「双方の意思表示の合致が必要」と指摘している。この「双方合意」の原則は、NHKと受信契約者が対等・平等の信頼関係によって成り立つものである。当然、その関係は受信契約後も継続されなければならない。
 NHK放送受信契約はその合憲性が「国民の知る権利の実質的な充足」にあることを双方が合意して契約を締結することが前提になるので、NHKと受信契約者の双方に権利・義務関係が成立する。そして受信規約には受信料が明記されているので、これは有償双務契約とみなすのが自然である。

 そこで放送法第4条1項やNHK放送ガイドラインなどの規定に違反し、「国民の知る権利の実質的な充足」に反する放送があれば、「双方の合意」と信頼関係を裏切っている「債務不履行の状態」とみなされ、そのような状態が続いている限り、受信契約者は受信料支払い義務を停止・留保するなどの抗弁権(民法533条)を行使できると主張するのは当然のことである。

 日本放送協会放送受信規約には、その前段に「放送法第64条第1項の規定により締結される放送の受信についての契約は、次の条項によるものとする」と明記されている。このことは放送受信規約においても、平成29年12月6日の最高裁判決が示した64条1項の意義や合憲性の理由、双方合意の原則が反映されるものと解される。
 そしてこれは放送受信規約が単に受信契約者のための契約要綱を明示したものではなく、原告(NHK)と受信契約者双方の権利・義務の存在を前提とした契約であることを明示したものと解されなければならない。
 また放送受信規約第2条には「放送受信契約は、世帯ごとに行うものとする」とあり、世帯ごとの契約者名義で受信料を支払うことになっているので、放送事業者(NHK)が負担する義務は当然、個々の契約者ごとに負うものでなければならない。

4) 上記の理由により「被告は原告の放送する番組の内容にかかわらず、受信料支払いの義務を負う」ということはありえない。

「原告の放送する番組の内容にかかわらず」という規定の仕方は、極論すれば独裁政権下の発想であって、前述の最高裁判決の趣旨をまったく理解していないか、最高裁判決の根幹を踏みにじるものと言わざるを得ない。また日本国憲法の精神や放送法の趣旨、NHK放送ガイドラインの存在なども否定しているに等しい。
 おそらくこの考え方の根拠は「公法上の義務」「一般的抽象的な義務」「受信料は特殊な負担金」などといった過去の判例に基づくものと思われるが、最高裁判決はこうした旧来の特権的、徴税的、非民主的な法概念に基づくものではなく、憲法放送法の趣旨に基づいた受信料制度の正当性について明示している。今後の受信料訴訟においては、この基本原則を踏襲するとともに、公共放送としてのNHKを良き方向へ導くものでなければならない。
 もし、受信契約者はNHKの放送する番組の内容にかかわらず、受信料支払いの義務を負うというのであれば、そのようにNHKホームページなどで告知すべきであり、放送受信規約にも明記すべきである。その場合、最高裁判決が示した64条1項の意義及び受信料制度合憲性との整合性についての説明責任が求められることは言うまでもない。

 3「なお、原告の放送において、放送法違反は存在しない」とする主張について

 これも司法の場の弁護人の結語としては常識的な言い方かもしれないが、「そ
うでなければならないからそう言わざるを得ない」式の、とってつけたがごとき一方的な理屈であり、「私どもは常日頃から自主自立を堅持し、公平・公正な報道に努めております」というNHK上田会長の国会答弁と同じで、まったく説得力がない。
 もし「放送法違反は存在しない」と主張するのであれば、私の令和元年5月21日付答弁書追加書面「私の言い分」で示した「放送法違反と思われる事例」全項目について、具体的にそれを立証しなければならない。それが双方の合意と信頼関係で結ばれた受信契約者(有償双務契約)の抗弁権に対する司法上の義務であり礼儀である。以下全項目(見出しのみ)を再掲する。

放送法違反と思われる事例」

平成27年(2015)安保法制をめぐるNHKの政権寄り偏向報道
平成27年(2015)9月「安保法案 参院特別委で可決」を既成事実化したNHK速報テロップと政治部記者の偏向解説
③ 平成29年(2017)共謀罪法案をめぐるNHKの政権寄り偏向報道
④ 平成29年(2017)森友学園疑惑におけるNHKの忖度報道
⑤ 平成29年(2017)加計学園疑惑におけるNHKの忖度報道
平成31年(2019)統計不正問題=小川淳也議員による根本大臣不信任決議案趣旨弁明を悪意ある切り取り編集で貶めたNHKニュース
⑦ リベラル系週刊誌「週刊金曜日」と保守系月刊誌「月刊日本」によるNHK批判特集
添付事例1.なぜ首相の「サンゴ発言」を検証せず放置したのか
添付事例2.岩田明子記者の虚報
 
 本書面の前段(2ページ)で紹介した元NHK経営委員長代行の上村達夫早稲田大教授(会社法)のコメントでも「国民が費用を負担するに値する公共放送とは何か、ふさわしい番組を提供しているか、真剣に議論すべきだ。判決の指摘にふさわしい存在であるか、NHKは今後も証明していかなければならない。」(毎日新聞・東京朝刊20171207)と述べている。

 

4.日本消費者協会の相談事例にみる最高裁判決と
NHK受信料 

 ここで(財)日本消費者協会が相談事例として同協会ホームページで紹介している「最高裁判決とNHK受信料を考える」を紹介したい。(乙11号)
 日本消費者協会は平成29年12月の最高裁判決の主な内容として以下の4項目を挙げて説明している
 

放送法64条は憲法の保障する国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかない合憲である
②契約の成立は双方の意思表示の合致が必要である
③契約が成立した場合の支払い義務の期間はテレビ設置時に遡る
④NHKに引き続き丁寧な説明を求める

 そのうえで、以下のような指摘と助言を行っている。

最高裁判決は、受信機を所有する者に受信料の支払い義務を認めたといえます。その一方で「NHKが契約への理解を得られるように努め、テレビ設置者に支えられて運営されていくことが望ましい」とNHKに対しても一定の努力を求めています。それは受信料を徴収するだけでなく、放送番組が公平性をもって、国民の知る権利に応えるよう制作されることだと思います。

受信料を支払う国民は、NHKの放送内容が真に国民の知る権利に応えているかチェツクすることが大切です。NHKには国民の声を受け止める機関を公表してほしいと思います。また相談事例の多くが、契約時の説明不足や強引な勧誘に起因しています。特定商取引法消費者契約法でこれらの行為は禁止されています。契約することは義務である、との一方的な契約のさせ方はするべきではありません。NHKは集金人に対しても十分な教育をするべきです。

受信料の支払いは強制される受け身の理由ではなく、憲法で保障された私たちの知る権利を満たすための支払いなのだということです。
受信料を支払いながら今後のNHKや社会の動向を注視していく必要があります。そしてNHKが判旨で求められた契約への理解を得られるように努めているかを、国民一人ひとりが注視し、協会に寄せられる相談などからも判断していくことになると考えられます。

――下線を引いた部分は、受信料制度を合憲とする最高裁判決の理由を受信契約者の側から積極的にとらえていて、特に私が意を同じくしたところです。
                   (同協会ホームページより 乙11号証)

第3.「NHKをぶっ壊す」N国党と
公共放送をめぐる提言

 今年7月の参院選挙で「NHKをぶっ壊す」を連呼して当選した国会議員が誕生した。NHKを国民から守る党の代表、立花孝志氏だ。立花氏は動画投稿サイトのユーチューブなどを舞台にNHK受信料契約を断る方法やNHK撃退シールなどを紹介して注目を集めていたが、今夏の参院選で、受信料を払った人だけがNHKを視聴できるスクランブル放送の実現を主張して話題を集めた。
                  (2019.7.24朝日新聞 乙12号―1)
 同氏は当選後、議員会館のテレビについて「受信契約は法律上の義務だが、受信料の支払いは義務ではない」などと発言。物議をかもした。
 こうした動きにNHKもすばやい対応を見せ、7月30日には受信設備があるのに受信契約を結び、受信料を支払わないのは違法だとする警告文書「受信料と公共放送についてご理解いただくために」を公式サイトに掲載。8月9日夜には総合テレビで受信料制度への理解を求める異例の番組を3分間にわたって放送した(2019.8.9朝日新聞 乙12号―2)。

 また9月5日の定例記者会見で上田会長は次のような説明を行った。
 「NHKはいつでもどこでも、誰にでも、確かな情報や豊かでよい番組を全国津々浦々にあまねく伝えていくという使命を果たすため、皆様からいただく受信料を財源として、自主自立を堅持しながら、命とくらしを守り、地域を応援し、日本を世界に発信するなど、公共放送ならではの様々な事業を行っています」
 「このところ、受信料制度について正確な理解に基づかない発言などがあり、こうしたことを踏まえ、公共放送の役割やそれを支える受信料制度の意義について、NHKの見解をきちんとご説明する必要があると考え、様々な取り組みを進めているところです――」(2019.09.05NHKリリース)
 こうしたNHKの動きに呼応して、政府も8月15日の閣議で、NHKの受信料をめぐる質問主意書に対して、NHKと受信契約を結んだ人は、受信料を支払う義務があるとする答弁書を決定した。(2019.08.15NHKニュース)

 9月5日の会見で、NHK上田会長はN国党が主張するスクランブル放送については「NHKに求められる公共の役割とは相いれない」と否定的な考えを示した。
 同時に「受信料は、公共放送の事業を維持運営するための負担金であり、放送の対価ではない」という説明を行った。(2019.0905毎日新聞
 これは先の最高裁判決の「国民の知る権利の実質的な充足」と受信料制度合憲の趣旨を逸脱したものとして、問題があると言わざるを得ない。

 こうした中で、わが国を代表する二つの視聴者団体がN国党や公共放送・受信料制度についての独自見解や提言を発表したことに注目したい。

 放送を語る会とNHKを監視・激励する視聴者コミュニィティーの声明の共通点はどちらも同じ理由でスクランブル制導入に反対していることだ。ここではNHKとも方向が一致している。
 私もNHKのスクランブル化には反対である。それは「公共放送」の崩壊と「国民の知る権利」の破壊につながると思うからである。今、この国に求められているのは、「NHKをぶっ壊す」ではなく、「圧力と忖度の空気をぶっ壊す」ことである。以下、両団体の声明を抜き書き(一部省略)で紹介する。

 

「NHKから国民を守る党」の主張を批判する
(視聴者団体・放送を語る会 2019年8月14日)

 視聴者団体・放送を語る会は――1990年8月にNHKで働く放送労働者有志が視聴者市民、メディア研究者、民放関係者、ジャーナリストなどに呼び掛けて発足した団体で、さまざまな立場の人が放送について考え、研究、発言する視聴者団体となっている。

1)問題はスクランブル放送が是か非かではない
 スクランブル放送にして、視聴する人だけ料金を払えばいい、という主張は、一見合理的であるかに見える。しかし、もしNHKの地上波放送がスクランブル放送になれば、受信料収入は激減し、現在のような規模の放送企業体としてのNHKは到底維持できない。NHKは「ぶっ壊れる」ことになる。
 たしかに、現在のNHKは、政権よりの政治報道をはじめ、そのあり方が様々な批判を浴びている存在である。しかし、そのことと、将来にわたってわが国ではNHKのような公共的放送機関が必要かどうか分けて考える必要がある。
 
2)公共放送機関をなくしてはいけない
 放送法は、NHKを、国費でもCM収入でもなく、視聴者の受信料だけで運営する放送機関とした。国家権力からも企業の支配からも自由に、独立して放送事業を行うことを可能にするための制度である。
 この制度に基づく「公共放送」によって、視聴者の多様な要求に応える放送が実現できることになった。NHKはマイノリティのための番組、教育現場への教材を提供する学校放送番組、文化の継承のための古典芸能番組など、視聴率に左右されない放送を実施できている。
 当放送を語る会は、このような、市場原理の影響からも自由でありうる公共的な放送機関は、日本の民主主義と文化にとって重要な存在であると考えている。その認識の上で、現在のNHKが、その理想にふさわしい状態にあるかどうかを監視し、必要な抗議・要求行動を行うというスタンスで活動してきた。

3)スクランブル放送を実施すればNHKはどうなるか
 スクランブル放送を実現すれば、NHKはどうなるか。最悪のシナリオでは、現
在、受信料契約をしている視聴者のうち大半がNHKと契約しない可能性がある。
受信料収入が激減することは避けられない。
 放送内容では、「ETV特集」や「NHKスペシャル」など時間と経費の掛かる
ドキュメンタリー番組は制作が困難になる。またスクランブルを解除してもらうた
めに、いわゆる大衆受けのする娯楽番組が主流になり、少数の視聴者を対象にする
福祉、教育、文化・教養番組などは消滅する可能性がある。
 そうなればNHKは小さな有料放送局として残るしかないことになる。
日本の放送界は実質的に商業放送が支配することになり、NHK,民放の二元
体制をとる現行放送体系は根底から崩壊せざるを得ない。このような状況では、放
送の分野で視聴者市民の知る権利が大きく損なわれる恐れがある。
 
4)いまNHKにもとめられるもの
 N国党の主張に問題があるにもかかわらず、選挙区で150万票、比例代表で98万
票が同党に投じられた事実をNHKは深刻に受け止める必要がある。NHKは現状
が真に「視聴者に支持される公共放送」となっているかを厳しく問い直すべきであ
る。
 公共放送のあり方を逸脱する政権広報のような政治報道を改めること、会長の公募
制など、NHKの経営への視聴者の参加の方法を案出すること、番組やニュースに関する視聴者の意見や批判に丁寧に答えること、委託法人等による暴力的な受信料契約強制をやめること、さらに、ニュース、番組制作者と市民が交流するようなイベントを企画し、対話を進めることを強く要求したい。
 「放送法では受信料を払うことになっている」といった解説的広報番組を流せば済むというものではない。公共放送の本来のすがたに立ち返る具体的な行動と努力が必要であることを、N国党の伸長という事態を受けてあらためて強調しておきたい。
(一部省略)(乙13号―1)



「NHKから国民を守る党」の言動と
NHK受信料制度等に関する見解

(NHKを監視:激励する視聴者コミュニティ 共同代表 湯山哲守・醍醐 聡2019.7.31)

 NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ―は――NHKがより優れた番組を提供するよう監視・激励すること、公共放送における視聴者の権利拡大と、政治権力からの自立を求める活動を進めることを目的として設立した視聴者団体。

N国党の主張に関する当会の見解
 N国党の主たる主張は「NHKの放送を見ていないのに受信料を払わされる人」と「NHKの放送を見ているのに受信料を払わない人」の不公平を「スクランブル化」の採用で解消するという点にある。この場合、同党が主張する「スクランブル化」とは「NHKだけ視聴できないテレビを希望する家庭には、NHKの電波を供給しない条例を制定する」というものである。
 しかし、当会はNHKの視聴者をこのように対立的に二分すること自体に反対する。なぜなら,NHKが公共放送として政治権力から自立し、民主主義の発達、視聴者の参政に資する情報を提供するには税金でも営利企業の広告料でもなく、視聴者の受信料で運営されることが必須の要件である。となれば、受信契約者はNHKの放送を見る、見ないにかかわらず、一定の受信料を定額制で負担することを否定するわけにはいかない。

 とはいっても、現状のNHKの放送、特に報道番組の多くは、公共放送としての使命に背く国策放送同然の状況になりはてている。このような状況では視聴者が、双務契約のもとで視聴者に認められてしかるべき「同時履行の抗弁権」を行使して、NHKが公共放送にふさわしい番組を放送しているという信頼を回復するまで受信料の支払いを保留するのは道理にかなっている。
 そのように考えると、NHKの番組を見ていながら受信料を払わない(支払いを保留している)人々を、N国党が主張するように無前提に問題視するのは筋違いである。

 また、NHKは全国あまねく受信できる基幹放送を行う公共放送としての使命(例えば災害放送や国際放送)を担っている(「放送法」第15条、第30条)。さらに、有権者の参政(投票行動だけでなく、日常の政治的意思表示にも)等に寄与する情報を提供することを通じて民主主義の発達に資する放送を行う使命を担っている。こうした役割を担うNHKの放送を受信する機会を捨てる選択を法律、条令で認めるよう要求することはとうてい承服できない。
 また、見たい番組だけを見ただけ受信料を負担するとなれば、NHKの受信料に定額部分は事実上なくなり、NHKの財政基盤は根底から不安定なものになるから、公共放送を税金でも営利企業の広告料でもなく、受信料で維持するという観点から、賛同できない。
 とはいえ、N国党が単純な「スクランブル化」や市民権の拡大を意図しての露骨な「改憲に賛成する意向」を主張しているにもかかわらず、一定の支持票と議席を獲得できた背景には、NHKの強引な受信料徴収への怒りや民放に比してあまりに巨大すぎる財政規模への視聴者の危惧があるものと考えられる。そこで以下に、受信料のあり方とNHKの視聴者への対応についての当会の見解と提言を述べておきたい。

 NHKの受信料制度等に関する当会の見解と提言

1)行政用語の誤った準用である「特殊な負担金」を金科玉条に振り回す愚を根本から改めるべき

 上記のような理由で、当会はN国党が主張するNHK受信料のスクランブル化には強く反対するが、NHKの現行の受信料制度を丸ごと肯定するわけでは決してない。むしろ、一律定額制のもとで、NHKがNHKの国策放送局化に対する抗弁として受信料の支払いを拒否・停止している契約者を含む視聴者に対して、簡易裁判所を介した民事督促をちらつかせ、民間委託事業者を使って威嚇的な取り立てを行っているのは公共放送として恥ずべきことである。

 そもそも現行の一律定額制は旧郵政省内に設置された一調査会が答申の中で用いた用語に過ぎず、行政用語として用いられる「負担金」=賦課の発想を、双務契約であるはずの公共放送に持ち込むのは法の誤った準用である。現に、民放・契約法学者の中に、受信料の支払い義務化に異議を唱える文脈の中で、次のような見解を表明した研究者がいる。
 「思うに、国民的支援にささえられた番組編成、経営基盤(財源)の自主独立性を堅持し、国民の総意に沿ったサ-ビスの提供に努めうる諸環境を存続させるためにも、NHKに完全な特権的、徴税的な心理を育成する方向には絶対に進むべきではなく、そのためにもNHKと受信者が受信契約の締結という行為を介して形成され、育成された相互信頼関係はその範囲で価値あるものであり、・・・・」
(河野弘矩「NHK受信契約」遠藤浩・林良平・水本浩監修『現代契約法大系』第7巻、サ-ビス・労務供給契約、1984年、有斐閣、241ペ-ジ)

 このような見解に照らしていうと、受信料=「特殊な負担金」論は、NHKの受信料を税金に準じたものに変質させ、「NHKに完全な特権的、徴税的な心理を育成する」論である。こうした俗論を断ち切ることがNHKの受信料改革に欠かせない第一歩である。
 また、「特殊な負担金」なる用語は内容においても、「NHKの業務を維持・運営するための」という抽象的形容詞を使ったにすぎず、受信料のあるべき体系を示したものではない。にもかかわらず、歴代の放送行政諸官庁が、まるでNHKの後見人かのように、このような抽象的国語的修辞を金科玉条のように振り回して、受信料=一律定額制の賦課料金と独断的に解釈し、かつ、この用語を以て、受信料=片務的料金と決めてかかり、視聴者の抗弁権というべき受信料支払い保留を否認してきた害悪は計り知れないほど重い。
(参考)「特殊な負担金」論については、総務省「公共放送を巡る現状と課題」2016年6月、4ページを参照。http://www.soumu.go.jp/main_content/000424431.pdf

2)受信料体系に従量制を導入する当会の試論的提言

 NHKはこの先、NHKの番組を視聴できる機能を備えた種々の端末機器を保有する人々にまで課金を広げることにしている。しかし、さまざまな搭載機能の一つとして、こうした機能を備えた機器を持っているというだけで、NHKの番組をほとんど視聴しない人にまで受信料課金の網をかけるのは、一律定額制の不条理を如実に示すものであって、「送りつけ商法」と非難されても誇張とは言えない。
 こうした不条理を根本的に改めるには、端末機器のいかんを問わず現行の一律定額制を改め、従量制を加味した体系へ受信料制度を転換させる以外にない。このことは生活必需的なサービスを提供する水道、電気、ガスといった公共料金でも、定額部分(基本料)と従量部分からなる二部料金制が採用されていることと比較しても、むしろ、自然な流れと言える。

 定額部分と従量部分の比重をどうするのか、など検討課題は多いが、他のアイデアも含め、当会のこうした提案が、多くの視聴者、NHK他関係方面で広く議論され、NHKの受信料制度を開かれた議論を通じて、一歩ずつ改革していく一助となることを願ってやまない。

3)NHKは視聴者の意見、議論に真摯に応答する責務を果たすべき

 昨今、視聴者の間で広がっているNHKへの批判、不信には受信料制度以外に、「意見、疑問に応答しないNHK」という批判がある。当会も、これまで、NHKのニュース番組の国策放送化、重要な国会審議を中継しなかったNHKの番組編集等に批判や質問を提出してきた。
 ところが、NHKはこれらのほぼすべてについて、独自の編集権を盾に応答を拒み、今後の事業の遂行に支障を来すという木で鼻をくくった理由で情報公開を拒んできた。しかし、「放送法」には次のような規定がある。
 「協会は、その業務に関して申出のあつた苦情その他の意見については、適切かつ迅速にこれを処理しなければならない。」(第27条)
また、「NHK放送ガイドライン」の 17「誠意ある対応」には次のような規定がある。

 ・「公共放送であるNHKは、視聴者によって支えられており、視聴者との結びつきが極めて大切である。ニュース・番組に対する問い合わせや意見、苦情などには誠意を持ってできるだけ迅速に対応する。批判や苦情も含め、視聴者の声は『豊かでよい放送』を実現するための糧である。」

 前記のような当会の質問に対するNHKの応答拒否が、これら規定に反することは明らかである。また、NHKの編集権は国家権力の介入からNHKの番組編集の自立を守るためのものであって、視聴者からの意見、質問を遮る盾としてはならない。
 視聴者からの意見、疑問へのNHKの慇懃無礼な対応、NHKふれあいセンターに寄せられる意見へのセンターの事務的処理に対する視聴者の不満、憤り、あきらめはマグマのように鬱積し、受信料支払い意欲を大きく減じている。
 NHKが「視聴者の声は『豊かでよい放送』を実現するための糧である」と本気で考えているのなら、直ちに前記のような不真面目な視聴者対応を根絶しなければならない。このことを再度、NHKに強く要求する。
 それでも、NHKが相変わらず、誤った編集権解釈を盾に当会ほか視聴者の意見、疑問、批判に応答しないなら、当会は司法の場を活用して、NHKの不当な姿勢を正す運動を起こす決意でいることを付記する。(一部省略)(乙13号―2)

 放送を語る会とNHKを監視・激励する視聴者コミュニィティーの声明の共通点はどちらも同じ理由でスクランブル制導入に反対していることだ。ここではNHKとも方向が一致している。
 私もNHKのスクランブル化には反対である。それは「公共放送」の崩壊と「国民の知る権利」の破壊につながると思うからである。今、この国に求められているのは、「NHKをぶっ壊す」ではなく、「圧力と忖度の空気をぶっ壊す」ことである。

 

~さいごに すこしながいあとがき~

 平成29年12月の最高裁大法廷の判決について、NHKで約30年にわたって番組制作に携わった元プロデューサーで武蔵大学教授の永田浩三さんは、「判決は、NHKに課せられた責任の重さを突き付けている。それにNHKが応えているのか」「今回の判決でNHKの報道に疑問を持つ人の声まで消えるわけではない。公共放送として、健全な報道を求める世の人に向けて仕事をしてほしい」と毎日新聞のインタビューで語っている。(2017.12.07毎日新聞 乙10号―2)
 
「NHKと政治権力」という一冊
 その永田浩三さんの著作に「NHKと政治権力――番組改編事件当事者の証言」(岩波現代文庫2014年8月刊)という一冊がある。
 番組改編事件というのは永田さんが編集長を務めた従軍慰安婦を巡るドキュメンタリー番組「問われる戦時性暴力」(Eテレ 2001年放送)で、NHKの複数の幹部が永田町の議員たちに、番組の内容について、放送前に説明し、議員から意見をもらった後、番組の内容を徹底的に変更するよう、現場に克明な指示を行い、その結果、番組がすっかり変わってしまったという出来事だ。
 放送後に市民団体がNHKを訴えた訴訟で、永田さんは局の幹部が現場に介入した実態を細かく証言した。本書はその事件の真相を全過程にわたって明らかにしたもので、放送現場での葛藤、政権党と癒着するNHK幹部の姿勢を克明に記した記録になっている。

「ラジオは…権力に屈せず、ひたすら大衆とともに歩み…」
 私がこの本の中で特に魅かれたのは、その事件とは関係なく、戦後、GHQの下でNHKを民主化し、ラジオで日本に民主主義を定着させようとする動きのなかで、民間人17人からなる「放送委員会」が発足し、その初代会長に就任した高野岩三郎の言葉だ。
 「ラジオは……いわゆる国家目的のために利用されることは、厳にこれを慎み、権力に屈せず、ひらすら大衆のために奉仕することを確守すべきである。権力に屈せず、大衆とともに歩み、大衆に一歩先んずる」
 「ラジオが国民大衆のためにあるためには、徹頭徹尾不偏不党の立場をとり、民主主義的であり、進歩的であり、大衆的であるほかは、何ら特定の政治的意見をも固執すべきではない」――。
 NHK前会長の籾井氏の就任会見「政府が右というものを左というわけにはいかない」と比べると、いまのNHKと戦後民主主義の劣化に絶望的にならざるを得ない。(乙14号―1)

憲法は権力者を縛り、放送法(NHK)は権力を監視する
 永田さんは「NHKと政治権力」のあとがきの中で、「NHKは放送法によってつくられた特殊法人です。放送法は、日本国憲法の精神を、放送というツールをつかって国民に定着させるための法律です。放送法の第一条には、健全な民主主義に資すると明記されています。つまり、NHKは、日本国憲法がないがしろにされる事態が起きるときには、その職責をとして、視聴者に警鐘を鳴らさなければなりません」と述べている。
 私も同じことを言いたい。
 日本国憲法放送法戦後民主主義を牽引してきた両輪である。憲法は権力者を縛り、放送法(NHK)は権力を監視する。しかしいま、その両輪が軋み、悲鳴を上げている。

「NHKをぶっ壊す」のではなく、「国民とともにあるNHK」をめざして
 「NHKをぶっ壊す」N国党の登場は、逆説的にNHKと公共放送の危機に緊張感をもたらしている。公共放送とは何か、NHKの使命・役割は何か、いま一度、原点に立ち返り、そこから本気でNHKを再生する。そういう時節を迎えている。

 その希望の一里塚が平成29年12月の最高裁判決ではないか。「国民の知る権利を実質的に充足させること」。「受信契約は双方の合意に基づくこと」。この二つの最高裁判決の趣旨は、放送法とNHKと視聴者(受信契約者)の本来あるべき関係を正しく明示している。それを死文化させてはならない。NHKには放送法を生きた言葉として受け止め、NHKと視聴者(受信契約者)が一体になって作り上げていくNHKをめざしてほしい。
 政府広報のNHKでも、権力者のためのNHKでも、大本営放送のNHKでもない。「国民とともにあるNHK」へ。
 私のささやかな異議申し立てから始まった今回の放送受信料請求事件の結末が、そのようなNHKと視聴者(受信契約者)の幸福な関係につながる、花も実もある判例になることを切に願っています。
 私の孫と、報道と言論の自由と、この国の未来の正常化のために。

 最後に、これからの公共放送としてのNHKの在り方を考える提言として、国際ジャーナリスト・堤未果さんの話を紹介したい。
 これは、2018年3月、NHK番組で大きな反響を呼び、ギャラクシー賞優秀賞を受賞したNHK-Eテレ「100分de名著スペシャル~メディア論」に登場した4人の論客(堤未果中島岳志大澤真幸高橋源一郎)が活字媒体で再び結集し、1冊の本としてまとめた「支配の構造 国家とメディア――世論はいかに操られるか」(SB新書 2019年7月15日刊)の中から抜粋したものである。

「社会的共通資本」としてのメディアを取り戻す
国際ジャーナリスト 堤 未果

 今、「NHKは不要だ、解体しろ」という声があります。経営委員の人事や予算を政府が握っているにもかかわらず、以前は時の政権への批判もしっかり報道していましたが、特に安保法案が強行採決された頃から、政権に都合の悪い内容を避けているのが目立ちます。記者やプロデューサーには素晴らしい人がたくさんいて、Eテレなどは今も優れた番組を作っていますが、報道局やトップと現場の温度差がますます広がっていることが、国民の「知る権利」を大きく脅かしています。
 だからこそ、NHKという象徴的な存在を通して「なぜ国家にとって公共放送が重要なのか」ということを、原点に戻って、徹底的に考え直す時期にきていると思うんです。
 今、「公共」という概念が、グローバル資本主義に飲まれ世界的に消滅しかかっている中で、「公共放送」というものも、その在り方を問われているからです。
 IT革命とコーポラティズムの台頭で、世論は「お金で買える商品」になりました。政府や広告代理店がフェィクニュースをばらまいて世論や選挙を意図的に誘導することも、簡単にできるようになってしまった。だからこそ、採算度外視でも国民の知る権利という公益に奉仕する「公共放送」は、国家や国民、そしてその国の民主主義にとって、今後ますます重要な意味を持ってくるでしょう。

 そういう意味で、世界最大の公共放送局であるNHKが時の総理に私物化されるとしたら、これは国家にとっての危機以外の何物でもありません。
 決して事実上の国営放送局になってしまってはいけない。あくまでも公共放送として、国民の「知る権利」という公益に奉仕してゆかなければならないのです。

 私が、メディアはさまざまな意見を流すプラットホームであってほしいとお話ししたのは、何もかも「自由化」の波に飲み込まれつつある中、優れた公共放送が国家にとって、社会的共通資本の一つだからです。戦争と平和、差別と人権、いのちと生物多様性、コミュニティの消滅や環境問題、農村・漁村の、ささやかだけれど大切な営みが破壊されていくこと。私たちが抱える問題は全て「知る権利」が損なわれたら、解決できないのです。世界最大の公共放送局としてのNHKという存在を、もう一度問い直すことで、「公共放送」という「守るべき存在」に、また一つ日本国民が、世界が気づいていく。それができれば、社会はまた一歩、良き方向ヘと変わっていくのではないでしょうか。
(「支配の構造 国家とメディア――世論はいかに操られているか」堤未果中島岳志大澤真幸高橋源一郎 共著 SB新書20190715より抜粋乙14号―2)

 ここには私が日頃思っていること、NHKに言いたいことが全部書いてある
と思った。この一文に励まされて、私は、この準備書面を書いた。
 

証拠書面リスト

乙10号―1 最高裁判決「識者の話」上村達夫早稲田大教授
毎日新聞2017.12.07)
乙10号―2 最高裁判決「健全なNHKに」(毎日新聞社会面2017.12.07)
乙10号―3 最高裁判決(要旨)(朝日新聞2017.12.07)
乙11号  日本消費者協会・相談事例 最高裁判決からNHK受信料を考える
(同協会ホームページより)

乙12号―1 N国「ぶっ壊す」連呼し国政へ(朝日新聞2019.07.24)
乙12号―2 NHKが異例の放送(朝日新聞2019.08.09)
乙12号―3 受信料支払う義務 政府が答弁書
(NHKニュースWEB20190815)
乙12号―4 上田会長会見(毎日新聞2019.09.05)
乙12号―5 受信料と公共放送について (NHK2019.07.30)
乙12号―6 受信料と公共放送にご理解いただくために(NHK2019.08.09)
乙12号―7 9月会長定例会見(NHK2019.09.05)
乙12号―8 N国党台頭で話題沸騰するNHK受信料の現実
(田上嘉一 東洋経済オンライン2019.08.10)
乙13号―1 「NHKから国民を守る党」の言動とNHK受信料制度等に関す
る見解(NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ 2019.07.31)
乙13号―2 「NHKから国民を守る党」の主張を批判する
(放送を語る会2019.08.14)

乙14号―1 「NHKと政治権力」(永田浩三著 岩波現代文庫より)
乙14号―2 「社会的共通資本」としてのメディアを取り戻す 堤未果
(「支配の構造 国家とメディア――世論はいかに操られるか」
堤未果中島岳志大澤真幸高橋源一郎共著 SB新書より)
乙14号―3 「NHKと政治権力」「支配の構造」2冊の表紙コピー

乙15号―1 NHK上田会長に「政府から独立した公共放送の原則に立つ政治報道を求めます」とした「NHKとメディアの「今」を考える会」の要請文(2019.3.22)
乙15号―2 「転機のNHK 「公共」の議論、今こそ」と題した2019年1月19日付朝日新聞社
乙15号―3 「NHK同時配信 改革と理念を示さねば」と題した2019年5月31日付朝日新聞社