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「NHK受信料不払い訴訟」の裁判記録とその他の余話

選挙報道の減少、争点報道の後退……2019年参院選をNHKはどう伝えたか、伝えなかったか。(放送を語る会モニター報告書より)

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NHK選挙WEB 「動画で見る参院選2019」より

 平成31年(2019年)夏の参院選投票率48.8%で戦後二番目に低い数字だった。「政治無関心層の増大」「若者層の政治離れ」などがその理由とされたが、メディアにもその責任の一端があったと言われる。
 選挙報道には、報道が民主主義の健全な発達に寄与できる重要な機会であり、有権者の政治的判断や政党選択、投票行動の判断に資する有益な情報の提供が求められる。そこでNHKはこの2019年参院選をどう伝えたか、視聴者団体「放送を語る会」のモニター報告書からその実態を紹介したい。

 モニター期間は参院選公示日の7月4日から投・開票翌日の22日までで、対象とした番組はNHK「ニュースウォッチ9」、日本テレビ「NEWS ZERO」、テレビ朝日報道ステーション」、TBS「NEWS23」などだが、ここでは、NHK「ニュースウォッチ9」を中心に取り上げる。以下、モニター報告書から抜き書きして引用(一部省略)――。

(1) 減少した選挙報道・後退した争点報道

 今回の選挙の最終盤にあたる7月19日、「朝日新聞」は「参院選 テレビは低調」との見出しで、テレビでの選挙関連放送の低調ぶりを記事にした。民間の調査会社の調査によれば前回(2016年)に比べ「ニュース・報道番組」では放送全体で3割減、民放だけだと4割減っている。こうした現象は放送を語る会のモニターした番組にも起きていたのか。それを検証するために、2016年参院選でのモニター報告と今回との放送時間数、放送回数の比較を試みた。

 【表1】で明らかなように前回と比較して著しい差が生じているのは「報道ステーション」で、前回13回の放送のうち、選挙に関する放送がなかったのがたった1日だったのに対して、今回は全体の42%にあたる5日間、選挙に関する話題に全く触れていない。こうした選挙報道の退潮傾向は「NEWS23」にも見られた。

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 もう一点、今回のモニターで明らかになったのは「争点報道」の少なさである。【表2】は今回放送された選挙関連報道の一覧表である。この中で「参院選の争点」として放送されたのは、7月9日「ニュースウォッチ9」「参院選の争点 社会保障」、10日「ニュースウォッチ9」「参院選の争点 消費税の引き上げ」と同じ日の「報道ステーション」「参院選の争点 年金問題」だけである。

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 このほかに、7月4日「ニュースウォッチ9」では、有権者が重視する政策として、「年金・社会保障」に絞って各党党首の訴えを紹介し、「NEWS ZERO」は「年金問題」に限定した党首討論を実施。7月18日「報道ステーション」「『憲法』9条改正各党は?」もれっきとした争点報道だった。
 にもかかわず、相対的に見てその少なさは異常ともいえる。なぜなら、今回の選挙ほど争点がはっきりしていた選挙は珍しかったからだ。安倍総理憲法改正を選挙公約の第一に掲げていたし、対する野党は目の前に迫った消費税10%引き上げや、選挙直前に明らかにされた老後の年金不足問題を、与党追及の武器として選挙戦に臨もうとしていた。

 選挙報道にとって、最も重要なのは「争点」を明らかにし、その争点に対する各党の考え方や、各社独自に取材した問題点などを、ひとつの番組にまとめて有権者に提示することだろう。有権者は各党の主張を比較し、争点の意味するところを知ることで、投票行動の参考にすることができる。
 報道各社は争点報道を避けたのではないか、と疑いたくなる。3年前の争点報道と比較してみるとそれはより明らかになる。

 前回は各局とも積極的に「参院選の争点」を取り上げていた。【表3】は「報道ステーション」、【表4】は「ニュースウォッチ9」についての比較だが、「報道ステーション」は5回にわたって「参院選の争点」を扱い、「ニュースウォッチ9」も三夜連続で「アベノミクス」「社会保障」「安保法と憲法」を選挙の争点にしていた。

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 また前回は「争点なき選挙」と言われた。とくに憲法については自民・公明両党とも「改憲問題は争点ではない」と主張していた。メディアはこれを「改憲隠し」と受け止め各局とも改憲を争点としてとらえ、番組に取り上げていた。にもかかわず、この時のモニター報告は「選挙報道は質・量ともに貧弱だった」と総括していた。

 その時より後退してしまった今回の選挙報道で何が起こっていたのか。ある在京キー局のプロデューサーは「安倍政権1強。政権交代が起きる要素もない。取り上げたくなる個性の強い候補者や選挙区もない」とし、そのうえ「(局側は)数字が取れないのに気ばかり使って、手間とリスクを背負い込む放送にメリットはない」と判断しているのではないかと発言している(7月19日「朝日新聞」(MediaTimes)。

 モニターに参加したメンバーからは「政府与党がメディアに要求した『公平公正』が足かせとなって、メディアが委縮し、どこからも文句の出ないように争点を曖昧にし、時間も短くしてしまったのではないか」との声も上がっている。

(2)NHK「ニュースウォッチ9」の選挙報道

 今回の選挙関連報道の中で、党首の演説をもとにしている企画が8回もある(9日10日も党首演説がもとになっていることは後述)。19日の「若者の投票率UP」も後半は各党議員の演説を要約したもので、独自取材による報道は、7月10日「消費税引き上げ」に関して行った、消費者や業者などへの直接取材、11、12日の一人区に関するルポだけである。
 もちろん、各党の主張を伝えることは大切であろう。が、党としての主張以外にも独自企画、独自取材によって報道すべき事柄は、数多くあったのではないか。争点報道の減少は、その中でも、最も問題とされるべきことである。

(3)「ニュースウォッチ9」は選挙の争点をどのように伝えたか

 選挙報道の中でも、争点について伝えることはテレビが最も適したメディアと言える。言葉だけでなく、映像表現で様々な問題を訴えることが可能だからだ。以下、NHK「ニュースウォッチ9」の場合――。

〇「憲法改正問題」
 「憲法改正」を争点番組として取り扱っていないが、折に触れて「憲法」に言及していた。まず7月4日公示日の放送で、有権者が最も関心を持っている政策課題について解説し、キャスターは「自民党憲法改正の意欲にくらべて、世論調査では憲法が重要政策と答えた人は6%に過ぎなかった」と報告し、さらに「野党側は安全保障関連法は憲法違反だとして、その廃止が優先課題だと訴えている」と解説。
 7月7日の「党首の訴え 徹底分析」は各党党首の演説に使われている言葉」の多少を分析することで、その党が何を重点的に訴えようとしているかを探ろうとした新しい手法であった。分析結果について担当した記者は「憲法という言葉を自民、共産、社民は繰り返し使っている。ただ、安倍総理憲法改正を議論する党かしない党か、二者択一を迫る言葉を使い、共産・社民は憲法改正反対という文脈で憲法を語っている」と述べ、さらに「立憲、国民、公明、維新は、憲法という言葉を一言も使っていない」と解説している。これは極めて興味深い結果である。言葉を量として捉え分析していく手法がどの場合も有効とは思えないが、ここでは成功していると言える。

年金問題
 7月3日、政府の諮問機関である金融審議会は「年金だけでは老後の生活費が2000万円不足する」との内容の報告書を麻生財務大臣に提出した。報告書は「100年安心年金制度」を掲げてきた与党に衝撃を与え、一方野党は選挙の格好の争点との構えをとっていた。しかし、麻生大臣はこの報告書の受け取りを拒否。「年金不足問題」は無きものとされ、討論が行われないまま選挙戦を迎えていた。
 「ニュースウォッチ9」では前項で紹介した憲法についての分析を試みた7月9日、党首演説から集めた言葉の分析から「年金」についても解説している。ここでは「年金」という言葉に関連してどんな言葉がよく使われたかを丸の大小で図示している。
 与党の場合、「年金」という言葉とともに、よく使われたのは「財源「運用」だった。野党はどうか。解説にあたった記者は「こちらも財源、あとは安心という単語も一緒に使っている」と述べている。ところが、画面で見る限り、安心と同じくらいの大きさで「マクロ経済スライド」が丸く示されているのだ。「財源」の丸よりはるかに大きい。記者は意図的にこの単語を外したのではないか。としたら何のために?「野党は、高所得者や企業に対する課税の強化で財源を捻出すると訴えているんです」と解説しているだけに、「マクロ経済スライド」に触れなかった理由が理解できない。

〇消費税10%引き上げ問題
 この問題を争点として取り上げたのは「ニュースウォッチ9」だけだった。7月10日「参院選の争点 消費税の引き上げ」として新しい手法による分析結果を報告。「憲法改正」「年金問題」と同じく、党首たちの演説に使われた「消費税引き上げ」にまつわる膨大な量の単語を分析し、与野党がそれぞれ何を争点にしようとしているのかを探ろうとする手法だ。
 テレビ画面では多く使われた言葉ほど大きな文字で表されていた。この分析結果から、与党が多く使っている言葉が「安心」「子育て支援」「応援」という言葉だったことがわかる。担当した記者は「与党はたとえ増税しても、安心な社会像をイメージできるようにポジティブな言葉を使っている」と分析。一方野党側の特徴は与党が一度も口にしなかった「増税」という言葉が一番多かった。記者はこれをもって「野党は、増税という言葉を使うことで暮らしや家計への負担が重くなることを強調している」と解説している。

 番組では、これに引き続き街の声や業者の声を、賛成反対の両面から多角的に拾っている。ただ解説部分では、与党が2.3兆円をつぎ込んで対応しようとしている景気落ち込み対策がきわめて具体的に語られるのに対し、野党の主張は「景気の恩恵は、優遇を受けた大企業など一部に限られる」「大企業や富裕層への課税を強化することで、財源を確保せよ」など、言葉の紹介だけにとどまっている。大企業優遇策とは具体的にどのようなものなのか、過去消費税が5%から8%に引揚げられたとき、どのようなことが起こっていたかなど、具体的な解説が加えられれば、有権者の投票行動により役だったのではないか。

(4)野党統一候補を立てた1人区についてどう伝えられたか

 立民、国民、共産、社民、それに「社会保障を立て直す国民会議」の4党1会派と市民連合は、全国に32ある一人選挙区すべてに統一候補を立てることに合意。事実上の与野党一騎打ちの構図が出来上がった。前回はこの方式で野党は11の議席を獲得したが、前回より共闘の基盤が強化されたのは、ここに関わった政党、団体が13項目にわたる「共通政策」に合意して選挙戦に臨んだことだった。この中には「安保法制廃止」「憲法」「沖縄」「消費税」「原発」など国政の基本問題での共通の課題が含まれていた。

 こうして出発した一人区を「ニュースウォッチ9」はどう伝えたか。
 新型防衛システム=イージス・アショアの配備問題で注目を集めた「秋田選挙区」では7月11日「参院選与野党激突~秋田・岩手~」というタイトルで秋田を取り上げた。
 東北6県の一人区で前回与党が勝利を収めたのは、唯一秋田選挙区だけだった。ところが、今回与党にとって極めて不利な問題が発生した。新型防衛システム イージス・アショアである。防衛相はその配属先のひとつを秋田市に確定しようと画策してきたが、そのためのデータに不備が見つかったのだ。しかも、その謝罪・訂正のために設けた市民との会合の席上、官僚の一人が居眠りをしていたことが発覚してしまった。その不誠実な態度に住民は硬化する。選挙はそんな最中に行われ、自民党現職の中泉松司氏と野党統一・無所属新人の寺田静氏の事実上の一騎打ちとなった。

 「ニュースウォッチ9」の内容は、中泉氏が「人口減少が続いているが、100歳まで生きがいとやりがいをもって生きられる社会をめざす」と決意を述べたのに対して、寺田氏が「住宅密集地、学校や福祉施設もあるところにミサイル基地を置くことはできない」と主張しただけで、基地がどんなところに作られるのか、その周辺の映像もなければ、住民の反応も伝えていない。ごく型どおりに両者の意見や選挙運動を紹介したに過ぎない。モニター担当者は「選挙公報政見放送と変わらない印象を受けた」と語っている。

 「岩手選挙区」「徳島・高知合区」も取り上げたが、与野党両候補の主張を等分に取り上げただけの「選挙公報的な扱い」(モニター担当者の感想)でしかなかった。

(5)政治的公平は保たれていたか

〇党首演説の時間配分
 「ニュースウォッチ9」が選挙期間中、その大部分を党首の演説にあてていたことはすでに述べた。問題は、放送に際して議席数によって時間配分に差をつけていたことである。
 まず7月4日公示日の「各党首の訴え」では、自民56秒、立憲40秒、国民37秒、公明35秒、共産30秒、維新30秒、社民17秒であり、自民は社民の3.5倍ある。これから一斉に選挙戦が始まるという時点で、こうした措置は公平なものと言えたのだろうか。選挙戦中盤の15日放送された「党首の訴え」でも同様の措置がとられていた。しかも、この時の党首の演説は全体で5分弱。選挙関連の報道としては短すぎる感がある。

 期間中、最も注目すべきは3日間にわたって報じた「密着 党首の選挙選」だった。この企画では、演説だけでなく、党首の私生活にわたる部分まで、様々な顔を伝えようとするものだったが、政党による時間差は自民が社民の3.6倍にもなっていた。すなわち、自民5分31秒、立憲2分46秒、国民2分40秒、公明2分35秒、共産2分17秒、維新2分15秒、社民1分31秒というもので、この結果、安倍総理の行動には大学生との対話、私生活でのメダカのえさやりまで実に多岐にわたっての紹介が可能になっている。他の党首の私生活の部分も紹介されてはいるが、その差は歴然としている。
 こうした企画こそ、それぞれの党首の人間性にも触れる好企画のはずだ。民放各社の番組がこれほど厳密な差をつけていなかったことから見ても、NHKのとった措置は、公平に見えてその実きわめて不公平な結果を生んでいるのではないか。企画によって、もっと柔軟な対応をしてもよかったのではないか。

〇政党要件を満たさない団体の取り扱い方
「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」はともに政党要件を満たしていないとして、選挙期間中、テレビメディアはほとんどその活動の様子を伝えなかった。にもかかわらず、「れいわ」は比例区で228万票を獲得して2議席を得、「N国党」は98万7千票余りの票を集め、1議席を獲得した。

 映画監督の想田和弘氏は、山本太郎(れいわ新選組代表)現象をテレビが報道しないことを批判している。その要旨は、もし、政党要件を満たしていないことや特定の政治団体を取り上げることの不公平が理由であるならば、今後、「いくら画期的で新しい政治現象が出てきても、テレビは一切無視するしかなくなる」。そんなことでテレビはメディアとしての役割を果たしていると言えるのか。結局のところ、「政治に対して最も影響力があるテレビというメディアは『公平性』を装いながら、実は既成の勢力に味方し、真新しい勢力の参入を拒んでいる」(7月31日東京新聞・論壇時評に中島岳志氏が引用)というものであった。

 この件に関しては、モニター担当者も「新しく立ち上がった政党の本質を見抜く目とそれを放送にのせる合意を手にしない限り、結果的にどのメディアも『比較大政党』の主張や動きを優遇することになっていくのではないか、そして、実際そうなっていた」と想田氏と同様の感想を寄せている。
 なお、モニターした各番組が「れいわ新選組」について触れたのは、いずれも投開票が終わった翌日、22日のことだった。
 だが、「既成の政党に満足できない有権者の受け皿になった」(「ニュースウォッチ9」)、「出口調査からみると、無党派層の10%はれいわ新選組に流れている」(「報道ステーション」)といった分析結果は報じられているものの、テレビメディアがこの党について放送しなかったことは、どの番組も言及していない。

(6)NHK「ニュースウォッチ9」は選挙結果をどう伝えたか

 今回の投票率48.8%は戦後二番目に低い数字だった。これについて多くの識者がテレビメディアにその責任の一端があるとしている。脳科学者の茂木健一郎氏は7月21日ツイッターで、低投票率について「選挙期間中、政策論争や、候補者の人となりを多角的に分析し質、量ともに充実したニュースとして報道してこなかったNHK、民放は何を思う? 少なくとも一部分は自分たちのせいだと恥じ入らないのか」とツイートしたという(7月27日「しんぶん赤旗」(レーダー))。

 「ニュースウォッチ9」で担当の記者は、低投票率は6年前から続いていて、毎回50%台前半で推移していたことをあげ、民主党政権から再び自公政権に代わった後も、与野党ともに十分有権者を引き付けられていないのではないか、と解説したが、メディアの責任については一切述べていない。それはキャスターたちについても同様である。

(7)今回のモニター活動の総括として、NHKへの要望

 NHKの受信料制度は、国家権力からも企業の支配からも自由に、独立、自律的に放送事業を行うために生まれた制度である。国政選挙のような民主主義の発展に貢献できる機会こそ、その真価を発揮すべき時であろう。
 放送法には、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」(第1条3)とある。放送には「民主主義に資する」責任があるのだ。選挙報道は、放送が民主主義の発展に貢献できる最も重要な機会である。それはNHKも民放も同じである。有権者は良質な選挙報道を欲している。それを忘れてはならない。
(「2019年参院選・テレビはどう伝えたか~後退する選挙報道~」2019年9月20日 放送を語る会より)乙17号証

「選挙報道の減少」と「争点報道の後退」はなぜ起きたのか?

 放送法第1条2項および第4条1項の視点から考える…
 「放送を語る会」のモニター報告書は2019年参院選におけるテレビ報道の際立った特徴として「選挙報道の減少」「争点報道の後退」を指摘している。それが戦後二番目と言われる投票率の低下にもつながったと。なぜこのような状況が生まれたのか。モニターに参加したメンバーからは「政府与党がメディアに要求した『公平公正』が足かせとなって、メディアが委縮し、どこからも文句の出ないように争点を曖昧にし、時間も短くしてしまったのではないか」との指摘もあがっている。

 「選挙報道の減少」は安倍政権が抱える数々の疑惑や閣僚不祥事に蓋をし、「争点報道の後退」は「消費税10%引き上げ問題」や「2000万円不足の年金問題」など、政府与党の得票低下につながる課題を見えなくした。つまり、ありていに言えば、安倍政権と自民党に有利になる選挙報道を展開したということである。
 国政選挙は政府与党の信任選挙でもある。そこでは当然、政府与党の政策評価や問題点、また野党の主張が国民によくわかり、正しい判断の下に、投票行動につながる情報や知識を提供するものでなければならない。

 放送法4条1項は「政治的公平性」(1号)とともに「論点の多角的提示」(3号)を求めている。まさにこれは選挙報道の鉄則ともいえる規定であり、「有権者の知る権利」に応える必須条件と言える。「公平公正」を理由に政府与党が選挙報道に口を出すことは「放送の不偏不党、真実及び自立を保障」する放送法1条2項に違反しており、その政府与党の要求にメディアが委縮し、「表現の自由」=「知る権利」を確保できないことは大問題だ。

 しかしながらこのモニター報告書による2019年参院選の選挙報道はNHKをはじめ、テレビ局全体で「国民の知る権利」より「政府与党への忖度」が優先されたことを暗示している。「健全な民主主義の発達に資する」放送が「健全な民主主義の発達」にブレーキをかけていた、と言っても過言ではない。

 

 *2019年参院選・テレビはどう伝えたか~後退する選挙報道~(放送を語る会モニター報告書2019.9.20)

 

www.nhk.or.jp

 

*この事例は、私が令和2年1月20日、東京高裁に提出した控訴理由書の中で取り上げたものです。